心臓病と女性
心臓病は、男性が最初の1年で死亡する原因の1/5に対して、女性ではその原因の約1/4を占めており、アメリカ合衆国における女性の死亡の主要な原因となっています。加えて、女性の心臓病治療には、男性よりも長い通院及び入院期間が必要で、高額な医療費として個人負担にはね返ってきます。
WISE調査結果の公表
女性の虚血性心臓病の画期的な研究結果である虚血症候群評価調査(Women’s Ischemia Syndrome Evaluation = WISE) によると、心臓病は、性別によって大きな開きがあります。調査によれば、多くの女性が冠微小血管機能障害を持っているにも関わらず、その障害が標準的な検査によっては診断が難しいため、自身によって認識されず、従って治療も行われていないことが判明しました。
同年代の男性に比べ、閉経前の女性は、エストロゲンの効果により、心臓病の発症率は低いレベルにあります。しかし、女性が心臓病に罹患する場合、多くは動脈硬化性プラークによって血流量が減少することで引き起こされることが分かってきました。加えて、心臓病を診断し、治療する方法は、男性の調査のみによって開発されてきたものです。
1970年代、冠動脈外科部門を設立した国立衛生研究所によって行われた調査では、負荷テスト陽性を持つ女性が閉塞のない血管造影結果を示す割合は、負荷テスト陽性を持つ男性より、4.5倍以上高いことが判明したのです。
微小血管疾患 (血管障害)
WISE調査結果の公表
WISE調査によると、負荷テスト陽性を持つ症状の女性でも、血管造影の多くは陰性結果を示していました。しかし、これらの女性の多くは血管機能検査に於いては、異常であると診断されたのです。彼女たちは、心臓の筋肉に栄養を送るための冠状動脈と細毛血管が正常に拡張できず、そのため血流が阻害され、結果的に血管機能障害に陥っていました。
血管機能障害は、健康な血管を持つ女性、冠動脈狭窄を持つ女性、その両方に発症していました。その上、それは、太い冠状動脈だけの問題ではなく、心臓に栄養をもたらす毛細血管ネットワークシステムが硬直して起こる問題もはらんでいたのです。
以来、この症状は、冠動脈微小血管障害、もしくは微小血管障害と呼ばれており、シンドロームXの名前で呼ばれることもあります。
何人かの循環器内科医にとって、微小血管障害病の発見は、虚血性心疾患を持つ女性が誤診され、治療を受けられてこなかったかを説明する理由として認識され始めました。標準的なプロトコルでは、冠状動脈狭窄のみしか判明できないからです。
微小血管障害によって、ほとんどの女性がなぜ、冠動脈疾患を示す古典的症状である胸の痛みを伴わないのかも説明可能となりました。女性では、この痛みの代わりに、血栓によって引き起こされる、それほど劇的ではない他の症状が引き起こされるのです。
女性における心臓発作の症状
- 重く、刺すような胸の痛み、または不快感
- 上腹部や背中の痛み
- 首 / 顎 / 喉の痛み
- 息切れ
- 消化不良、胸焼け、吐き気・嘔吐
- 一部の女性は、一般的な心臓病の症状を伴わない場合があります。
この場合、心臓疾患は音もなく進行し、心臓疾患のはっきりとした兆候や症状が現れるまで診断不能の場合があるのです。 - 上半身の不快感
血管形成手術とバイパス手術を受けた女性が、なぜ男性同様の改善を見せないのか、WISE調査は説明できるかもしれません。彼女たちは冠動脈疾患と共に、認識不能な微小血管障害を持っているのかもしれないのです。このような場合、動脈を開く手術を行うだけでは治療は不十分なものになってしまいます。
病理を探る
微小血管狭心症シンドロームはどのように、そしてなぜ引き起こされるのでしょうか。炎症は、有力な容疑者です。炎症は、動脈硬化に関与しているだけでなく、女性において男性よりもはるかに一般的な、自己免疫疾患などの炎症性疾患の原因でもあります。LAにあるCedars-Sinai 医療センターの医学博士、ノエル・ベイリー・メルツ教授によって率いられるWISE の研究者たちは、炎症と関連のある3つのタンパク質 ~ C-反応性蛋白質 (CRP), インターロイキン-6 (IL-6), および血清アミロイドA (SAA) ~ が特に重要であると報告しています。ベイリー・メルツ教授は、EndoPAT®を所有しており、長年に渡りイタマーメディカルに対して心臓関連の医療問題への助言を行っています。これらのタンパク質が高レベルにある女性たちは、低レベルの女性たちに比べると、冠動脈閉塞を起こす可能性が少し高いだけでも、冠動脈疾患への罹患、もしくは5年以内に死亡する可能性が高くなってしまうのです。このことは、炎症マーカーによって女性の微小血管疾患を評価するアイデアにつながりました。剖検調査も、このアプローチを支持しています。研究者たちは、心臓発作で死亡する女性の病態は、男性のそれとはしばしば異なることを報告しています。男性の場合、プラークは内腔に押し込まれるか、動脈壁に穴を開けるような形で、独立して蓄積されることが多いのに対し、女性においては、慢性的な炎症の進行結果、血管の周りに均一に蓄積されていくことが多いようです。もし炎症が血管内に慢性的に存在すると、血管内の細胞が剥がされ、多くのコレステロールを含んだプラークが育ってしまう理想的な温床が作られてしまいます。このプラークは、血管の中に堅い壁を作り、血管の破裂といった男性特有の症状を発することなく、血管を徐々に侵食していきます。すると、血管がこの侵食を修復する努力によって、炎症のサイクルが永続化されてしまい、微小血管疾患に起因する心臓発作の引き金でもある、小さな血栓の形成に拍車をかけてしまうのです。
炎症の先へ
炎症は、冠動脈障害の唯一の原因ではありません。WISEの研究者たちが、古典的な心血管のリスク要因を再確認していったところ、遺伝子、高LDL コレステロール、低HDL コレステロール、高トリグリセリド、高血糖、高血圧、座りがちな生活、肥満など、すべての札付き容疑者が関与していることが判明しました。また、これらの古典的要因以外にも、幾つかの新しい危険因子を発見することができました。
- 閉経前の高血圧 高血圧、特に若い女性の高血圧は、虚血性心疾患の主要な危険因子です。それは、冠動脈に並んだ細胞を傷つけ、免疫細胞を引きつけることで、炎症を引き起こし、大きくしてしまうのです。
- 貧血 WISEによる研究では、正常なヘモグロビンのレベルにある女性に比べて、貧血症の女性は心血管障害のリスクが高まることを確認しています。貧血によって、心臓の筋肉に酸素を供給する赤血球細胞を減少させてしまうからです。
- 多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) PCOSを持つ女性は、エストロゲンの異常値とともに、メタボリック・シンドロームを引き起こす様々な構成要素を持っています。エストロゲンは炎症を抑制する機能があるため、これが不足する場合、特に閉経前の女性に於ける心臓病リスクが上昇する可能性があります
患者との話し合いの上、リスクの再評価を
もしあなたが、原因不明の疲労や息切れなど、心臓病の危険のある、もしくは心臓病を持つ女性患者を診ているなら、ぜひこのWISE調査の結果を話してください。そして特にこの患者が「偽陽性」のストレステスト結果を持っていた場合、その患者に対する診療方針を再評価する必要があります。よしんば冠動脈疾患の危険性がなかったとしても、微小血管疾患によって心臓病リスクが高まっている可能性があるからです。EndoPAT®は、このタイミングでの検査に、重要な役割を果たす可能性があります。
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